はじめに
「同じ営業手法では、通用しなくなってきた。」
そう感じている営業パーソンは多いのではないでしょうか。顧客ニーズが多様化し、競争が激化する現代において、営業に求められるのは「状況に応じて売り方を変える力」、すなわちアダプティブ・セリングです。
本稿では、2025年に発表された研究論文『The Past, Present, and Future of Adaptive Selling』をもとに、アダプティブ・セリングの学術的進化、実務への示唆、そして日本の営業現場における活用方法について詳しく解説します。
アダプティブ・セリングとは何か?
アダプティブ・セリング(Adaptive Selling)とは、「顧客や販売状況に応じて営業スタイルを柔軟に変化させる能力」を意味します(Weitz et al., 1986)。画一的な営業から脱却し、相手の反応や環境に応じて提案内容やアプローチを調整することで、より高い成果や信頼関係を築くことが目的です。
なぜ今、アダプティブ・セリングなのか?
グローバル調査では、営業担当者の66%が日々の活動でアダプティブ・セリングを実践していると回答し、75%が直近1ヶ月以内に営業スタイルを変更した経験があると述べています。
これらの結果から分かるように、「変化への対応力」が現代営業の重要指標となっているのです。とりわけ、日本においてはDXやリモート営業の普及により、従来型の営業フローからの脱却が急務とされています。
40年の研究が示すアダプティブ・セリングの進化
Chakerらの研究は、1981年から2024年にかけて発表された188本の論文をレビューし、アダプティブ・セリングの進化を4つのフェーズに整理しています。
フェーズ1:基礎の確立(1980年代)
顧客志向への転換が進み、営業は「信頼される助言者」へと役割が変化。セールスの柔軟性が注目され始めました。
フェーズ2:対人スキルと文脈適応の重視(1990〜2000年代)
多様な顧客ニーズに対応するため、コミュニケーション能力や文化的背景への理解が重視されました。
フェーズ3:顧客期待と関係性の深化(2010年代)
SNSやCRMなどのテクノロジーを活用し、リアルタイムで顧客理解を深める戦略が中心に。
フェーズ4:変革的な顧客エンゲージメント(2020年代)
非対面環境でも顧客関係を構築・維持する力、自律的な行動(セルフリーダーシップ)が営業に求められています。
実務への示唆:何が成果を分けるのか?
研究では、アダプティブ・セリングは営業成果にプラスの影響を与える傾向がある一方で、その効果は一律ではないことも明らかになっています。成功の鍵は以下の4点にあります:
- 顧客情報の精緻な収集と分析
- 複数の提案スタイルの習得
- 自身の感情・対応力のセルフマネジメント
- 組織の支援体制(教育・評価・文化)
とくに「やればうまくいく」という短絡的な導入ではなく、「どの状況で、どのように変えるべきか」という判断力の育成が重要です。
結びにかえて──営業の本質は「柔軟性」にある
アダプティブ・セリングは一時的な流行ではなく、営業の本質とも言える「対人力」「柔軟性」「戦略性」を内包した重要なスキルです。現代の日本企業にとって、営業活動における個別対応力の強化は、競争力そのものに直結します。
「顧客に合わせる」という当たり前を、戦略的に、かつ体系的に実践する──。そのための鍵がアダプティブ・セリングなのです。