営業活動の変化の大きな流れ

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トランザクション型販売からリレーションシップ型販売への移行

従来の営業活動と近年の営業活動の本質的な大きな違いは、トランザクショナル営業リレーションシップ営業という二つの流れに分けられます。(下表)

トランザクション・セリングリレーションシップ・セリング
○新規顧客の獲得
○注文を取る
○価格を下げて販売を得る
○短期的な売上最大化のためにすべての顧客を管理する
○誰にでも売る
○既存の顧客を維持する
○好まれるサプライヤーになる
○利益のための価格設定
○長期的な利益のために各顧客を管理する
○高収益の可能性のある顧客に集中する
トランザクション・セリングとリレーションシップ・セリングの比較(出典:Spiro他)

従来は、自分(自社)の売上高を確保することが重視されました。そのために、顧客の本当の意向やニーズにはお構いなしに、強引に売りつけるような手法が追求される結果となりました。そして、営業活動やマーケティング活動が、セリング(Selling)と呼ばれ、白眼視されました。

セリング

ただし、トランザクションを重視することは、組織としては決して間違っている訳ではありません。組織としての業務効率を追求する中では、トランザクションの効率化を図ることは重要です。顧客が本当に必要とする製品やサービスを提供しているか否かが鍵となるでしょう。また、顧客の方でも、重厚な関係性よりも単純な取引を望んでいる顧客がいる可能性もあります。ただし、そのバランスが問題です。

今日では、多くのビジネスでは顧客との関係性を重視します。顧客との関係性を重視し、良好な関係を維持することは、反復購買や購買量の増加につながる可能性があるのでとても重要です。営業活動も顧客との関係性維持を念頭に置くようになります。たとえば、営業員の業績評価の際に、顧客との関係性を評価基準として用いる場合があります。

相談型的営業

関係性の中身について、より顧客側の立場に立って支援するという観点から、製薬業界等一部の業界においては、相談型的営業(Consultative Selling)も実践されています。相談的営業とは、顧客が戦略的目標に到達できるよう、顧客を支援するスタイルです。その手段として、自社の製品やサービスを提供します。この相談型営業は実は古く、1970年代くらいから提唱されたアプローチです。

SPIN営業

似たようなアプローチにSPIN営業があります SPIN営業とは、Situation Problem Implication Needsの用語の頭文字をとった呼称で、商標登録されています *。ラッカム(2009)。SPIN営業は、大型商談を対象とした問題解決型アプローチです。このアプローチの注目すべき点は、問題解決に取り組む課題の取捨選択をおこなうことです。取捨選択の際に、すべての顧客の問題が解決するに値するものではなく、メリハリをつけることを強調しています。「お客様は神様」として絶対視をしない点が、特徴であると言えるでしょう。

アダプティブ・セリング

営業活動の変化の中で、アダプティブ・セリング(Adaptive Selling)という新しい概念も提唱されています。アダプティブ・セリングとは、営業活動で顧客と接触中に、相手の反応によってこちらの当初の計画や目標を変更することです。簡単に言うと、状況に応じて柔軟に対応することです。あえて新しい用語で言わなくても、優秀な営業員や業績の高い企業ではすでに実践しているかも知れません。

アダプティブ・セリングの度合いによって、営業アプローチを分類することもできます(下図)。アダプティブ・セリングの度合いによって、以下の五つの営業アプローチが示されています。

  1. 刺激反応的、
  2. 購買プロセス的
  3. 欲求充足的
  4. 問題解決的
  5. コンサルティング・セールス的
状況別営業アプローチ 出所:Ingram等(2020)

アダプティブ・セリングについての研究では、業績に直接影響があるのは、顧客の4つのニーズ(①ニーズ、②パーソナリティ、③コミュニケーション・スタイル、④ボディーランゲージ)であることが示されています *6。

営業活動に変化をもたらす内部要因

外部要因以外でも、企業の内部要因も営業活動に変化をもたらします。内部要因にはさまざまな内容がありますが、それぞれに対して営業活動も対応する必要があります(下表)*5。

内部要因(経営戦略の変化)営業活動の課題
○新製品導入
○企業合併
○販売プロセスの変更
○トランザクショナル型からコンサルティング型へ
○新規チャネル戦略
○新規市場参入
○付加価値サービスの提供
○高コスト
○不充分な新規顧客獲得
○自己満足
○責任の希薄化
○高い離職率
○顧客の多様性に対応できない
○製品の多様性に対応できない
内部要因と営業活動の課題

現在の状況

近年では、インターネットの普及やコロナ禍の広がりにより、営業活動にさらに大きな変化がもたらされています。インターネットの普及による営業活動の変化は、インサイドセールスという新しい形態の営業活動が進んだことです。

また、コロナ禍による社会的なリモート勤務奨励の流れは、リモート・セールスZoom営業と言った、新しい営業活動のスタイルを出現させています。

参考資料

  1. Spiro, Rosann, William Stanton, and Gregory Rich (2007). Management of a Sales Force, McGraw-Hill/Irwin.
  2. ニール・ラッカム、『大型商談を成約に導く「SPIN」営業術』、海と月社、2009
  3. Ingram, T. N., R. W. LaForge, R. A. Avila, C. H. Schwepker Jr. and M. R. Williams (2020). Sales Management: Analysis and Decision Making. Routledge.
  4. Johnston, M. W. and G. W. Marshall (2020). Sales Force Management
  5. Jones, E., S. P. Brown, A. A. Zoltners and B. A. Weitz (2005). “The Changing Environment of Selling and Sales Management.” Journal of Personal Selling & Sales Management 25(2): 105-111.
  6. Alavi, S., J. Habel and K. Linsenmayer (2019). “What does adaptive selling mean to salespeople? An exploratory analysis of practitioners’ responses to generic adaptive selling scales.” Journal of Personal Selling & Sales Management 39(3): 254-263.
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