フットインザドア・テクニック
営業活動の中でよく用いられるアプローチに、フットインザドア・テクニックと呼ばれるものがあります。訪問先でこちらがセールス目的だとわかると、相手がいきなりドアを閉めようとしたとします。その際にドアの隙間に足先を入れて、「話だけでも聞いて下さい」、と粘って商談につなげようとするアプローチです。
この現象をもとに、Freedman等が説得のテクニックとして理論化したのが、このフォットインザドア・テクニックです。フットインザドア・テクニックは、本来の目標がなかなか承諾を得にくい場合に、最初に本来の目標よりも簡単な内容について協力をお願いします。そこで一旦相手の承諾を得ることが出来ると、本来の目的に対する承諾も得られやすくなるというものです。理論化の際に背景として用いたのが、認知的不協和理論です。
認知的不協和理論(cognitive dissonance)とは
認知的不協和理論とは、フェスティンガーによって提唱されました。認知的斉合性理論とよばれる、人間の認知と行動を説明する理論の内のひとつです。認知とは、自己や周囲の環境に対するさまざまな信念や知識のことです。個人の心の中に互いに矛盾するような認知がある場合、不協和が生じます。不協和は、不快感と緊張を引き起こすため好ましくありません。
そこで人は不快感と緊張を緩和するために、不協和を解消しようとします。不協和を緩和するためには、どちらかの認知を変更し無ければなりません。その際に、どちらか変更しやすい方の認知を変えることによって不協和を解消しようとする、というのが認知的不協和理論の主張です。
フットインザドア・テクニックの例で言うと、訪問先の相手があなたを家の中に入れた時点で相手の簡単な要求を受諾しています。それと商品を買うつもりはないという最初の態度は矛盾することになります。そこで不協和を解消するために、買うつもりはないという自分の認知を変更します。その結果、買うつもりが無かった訳では無いのでという気になり、商品を買ってしまうことにつながるわけです。
ドアインザフェイス・テクニックとローボール・テクニック
おなじような理屈づけによって提示されたのが、ドアインザフェイス・テクニックとローボール・テクニックという二つの説得技法です(Cialdini等)。一つ目のドアインザフェス・テクニックは、相手が面前でピシャリとドアを閉めるという表現(シャットザドア・インザフェイス)から取られています。相手の顔を見るだけでも嫌だと言わんばかりに、ドアを面前で締め立てる様子が目に浮かびます。
ドアインザフェイス・テクニックでは、最初に、最終的に納得させたい目標よりも遙かに難しい内容を提示します。当然のように相手がこれを断ると、最初の提示よりも簡単な内容の本来の目的を提示します。顧客に一旦断らせることによって、相手に心理的に罪悪感を抱かせます。その後で、簡単な内容の本来の目標を提示するため、相手は応じやすくなります。
二つ目のローボール・テクニックでは、一旦低めの条件を提示し、相手に承諾をさせます。その後、状況が変わったことなどを理由に、最初に提示した低めの条件を取り消します。それでもいいかと相手に聞くと、相手はすでに一旦承諾しているので、いまさらその承諾を取り消しにくくなる、という心理的な反応を利用(悪用?)しようとするわけです。
参考資料
- Freedman, J. L., & Fraser, S. C. (1966). Compliance without pressure: The foot-in-the-door technique. Journal of Personality and Social Psychology, 4(2), 195–202
- Cialdini, R. B., Cacioppo, J. T., Bassett, R., & Miller, J. A. (1978). Low-ball procedure for producing compliance: Commitment then cost. Journal of Personality and Social Psychology, 36(5), 463–476. doi:10.1037//0022-3514.36.5.463
- Cialdini, R. B., Vincent, J. E., Lewis, S. K., Catalan, J., Wheeler, D., & Darby, B. L. (1975). Reciprocal concessions procedure for inducing compliance: The door-in-the-face technique. Journal of Personality and Social Psychology, 31(2), 206–215. doi:10.1037/h0076284